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ラボ

​正しい腸活を知る

「便秘や肌荒れ、花粉症など今の不調を解決したい」「アンチエイジングに良さそう」という理由で「腸活」に興味はあるけど、様々な情報や腸活サプリメントがあり、どれが自分に合っているのか分からない。何となく分かっているつもり。もし、あなたがこのようにお考えであれば、”腸活難民”かもしれません。

ここでは、ステルスマーケティング(広告であると明記せずに隠した販促・宣伝行為)に惑わされないための、正しい腸活の基本的なポイントをご紹介します。

ノーベル医学 生理学賞の受賞者で、微生物・分子生物学者のJoshua Lederberg 博士は、「我々人間は、ヒトと常在微生物が高度に絡み合った“超生命体”として考えるべき」*(1)と述べています。私たち一人ひとりは、常在微生物と共同体であり、共に協調して生きている生態系でもあります。


腸活を考える上で最も重要なことは、私たちは常在微生物と高度に絡み合った生き物であるということです。そして、この常在微生物の多くが腸に中心に棲息しています。

1. 腸活とは
→オナカを元気にすること
 [腸機能の活性化で健康増進]

腸は、健康を維持するために重要な役割を果たす臓器です。そのため、腸の働きや腸内環境の劣化を防ぐこと、さらに腸本来の機能を活性化させ、デトックス(排泄)、肥満抑制、免疫バランス・治癒の向上を促すことで、便秘や下痢、肌や髪質状態、ダイエット、アレルギー、不定愁訴(体調が優れない)、精神的な健康(メンタルヘルス)などを改善します。
このように、腸に着目し、心身の健康増進につなげ、病気を予防し、いつまでも若々しく、スッキリとした気分で過ごせることを目指した活動が「腸活」です。

また、腸内フローラ(腸内細菌叢)は、宿主(人間)にとって必要な物質を作り出す一方、 腸内腐敗産物や二次胆汁酸などの有害な物質も生成します。 変異原物質や発がん物質の生成や活性化することで発がん促進をすることも、また、それらを分解や不活化、吸着などで除去することでがんの予防に役立つ可能性があることも知られています。*(2)

腸の主な役割

- 食べた物の消化・吸収
- 排泄
- 血液をつくる(造血)​

腸内細菌の助けによって以下も担っています。​

- 病原体に対する防衛・排除
- ビタミン類
*Cをつくる
- ホルモンや酵素をつくる
- アミノ酸をつくる
- 血糖値や血圧を調整
- コレステロールを代謝
- オリゴ糖や食物繊維
*Dから短鎖脂肪酸を生み出す
- 免疫バランスを整える、など


*C:ビタミン類:B2、B6、B12、K、葉酸、パントテン酸、ビオチンなど ,*D:難消化性成分

2. 腸活の重要なポイント
→①菌の種類数と組成比
    [腸内フローラの多様性]

私たちの口腔・咽頭・呼吸器、尿生殖器、胃・腸などの「身体の内側」を含めたあらゆる体表面には、細菌が共生しています。この細菌の集合体を細菌叢(マイクロバイオーム:microbiome)と呼びます。(「マイクロバイオータ」とは、特定の環境に生息する微生物の集団、「マイクロバイオーム」は単に微生物の集団だけでなく、その遺伝的な情報や周囲の環境との相互作用も含む、より包括的な概念です。)これらはそれぞれの場所に固有のバランスを保ちながら定着しています。

特に腸内細菌は、私たちの健康や生命機能を維持しているともいわれています。便宜上「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」とよく言われますが、そのような細菌は実際には存在しません。私たちが健康でいられるのは、善玉も悪玉も含めた多種多様な細菌たちが私たちのオナカの中で複雑に相互作用しながら一つの生態系を作り出しているのです。これは私たちの人間の社会も同じではないでしょうか。

 

この腸内に多様な細菌が共存共栄している状態を「シンバイオシス:symbiosis」と呼びます。そして腸内細菌のバランスが崩れ、多様性が無くなる、共生が上手くできていない状態を「ディスバイオシス:dysbiosis」と呼びます。

このdysbiosisと免疫(アレルギー・自己免疫疾患)、腸(炎症性腸疾患・過敏性腸症候群・大腸がんなど)、神経(うつ病、自閉症、パーキンソン病など)、代謝(肥満、糖尿病、動脈硬化症、脂肪肝・肝がんなど)といった様々な領域の疾患と密接な関係があることも判明しています。*(3) つまり、私たちの腸内フローラは多様性が最も大事だということです。

ここで言う多様性とは、腸内細菌の「菌種数」(α多様性)が多様であり且つ、各菌種の割合である「菌種組成比」(β多様性)のバランスが高いことを言います。

→②オナカを動かす

​  [腸のぜん動(収縮)運動の適正化]

人は食べた物を、入口(食道)から出口(直腸)まで、消化管の壁*Eのリズミカルなぜん動(収縮)運動により移動させながら、消化・吸収します。*(4) また、このぜん動運動により腸管内に滞留している有害物資の体外へ排出しています。

腸管のぜん動運動は、腸管神経系*Fと自律神経系(交感神経系と副交感神経系)が支配しています。食べ物が腸内を通過すると、腸粘膜が刺激を受け腸管神経系を活性化し、ぜん動運動が始まり、自律神経系がコントロール*Gをします。この腸菅神経系は、食べた栄養素の種類や量を自ら確認し、消化に必要な酵素の分泌や、混ぜ合わせるために胃腸を動かせる指令を出しているのです。

このような高度な自律性は他の臓器には見られないため、腸は「第2の脳」*(5)とも言われています。

便秘予防に限らず、腸のぜん動運動が促されることが大切です。しかし、何らかの原因*Hで、ぜん動運動が活発になり過ぎと下痢が起こります。また、腸は自律神経の影響も受けます。緊張している時や怒っている時などは、腸の動きが止まります。またリラックスしている時は腸の動きが活発になります。つまり、腸を動かすこと、腸のぜん動運動を上手く動かすことが重要です。

*E. 平滑筋 , *F. 内在神経系 , *G. 副交感神経がぜん動運動を活発、交感神経が抑制, *H. 神経伝達物質が過剰分泌や、腸粘膜刺激物の増大など

​3. 腸活のメリット
→効果が分かりやすい
   [改善効果が効率的に現れる]

生き物には本来、免疫(生体防衛力)と治癒(再生修復力)を備えています。この二つの根幹をなしているのが、「血液と腸内環境」です。腸内細菌は、健常者よりも疾患患者の方が食事の影響を受けやすいと考えられます。ウォーキングや水泳、ヨガ、ストレッチなど、カラダに良いとされる殆どのものは、直接的、または間接的に「血液と腸内環境」を良くするものです。

血液の白血球が免疫細胞で、全体の約70%が腸に集中していると考えられています。そして、この免疫・治癒に深く関係しているのが腸内フローラです。「腸活」は健康の根幹の一つである腸内環境を整える活動なので改善結果が効率的に現れるのです。

腸活の期待効果

(1)肥満・生活習慣病予防
代謝促進による肥満抑制などのダイエット効果、血中脂質(コレステロールや中性脂肪)正常化や血圧の低下作用*(6)、血糖値の安定やインスリン分泌(インクレチン効果)促進作用などによる生活習慣病(高血圧・脂質異常症・糖尿病など)の予防効果*(7)

(2)アンチエイジング
食べ物の栄養の消化・吸収や毒素排出(デトックス)を促し、腸内での抗酸化物質や抗酸化酵素により過剰活性酸素の除去(酸化抑制)を通じて、美肌・美髪など肌質や髪質その他身体細胞組織の質的改善効果
 
(3)免疫力・治癒力の向上
良質な血液の組成(造血)促進、制御性T細胞(免疫細胞の一種)活性による免疫細胞の暴走を抑制(アレルギー抑制)、NK細胞(免疫細胞の一種)活性による病原体やがん細胞の抑制*(8)など免疫力・治癒力の向上による「病気予防」「早期回復」効果
 
(4)メンタルヘルス面の調整
幸せホルモンとも呼ばれる脳内神経伝達物質が腸内での合成が促進*(9)され、ストレス緩和や精神的安定の効果

4. 効果的な腸活方法
→偏らない
   [バランスの理解と実践]

発酵食品は、乳酸菌などの様々な細菌を含みます。乳酸菌などは、十分な量を投与した場合、宿主に健康上の利益をもたらす生きた細菌で、プロバイオティクス*Iとも呼ばれています。オナカの腸内細菌のバランスを整え、腸内の異常状態を改善(整腸作用)し、さらに、免疫を活性化させる作用もあります。但し、ヨーグルト(発酵乳)などの発酵食品に含まれる乳酸菌*Jは胃酸や胆汁酸などで殆どが死んでしまいますが、死んだ菌(死菌)も腸内細菌を活性し、腸内環境を改善する可能性があることが分かってきています。

しかし、ヨーグルトをいくら食べても、その中の微生物が腸内で増殖して定着することはありません。人の腸内フローラには、人からもらった細菌しか定着しないと言われています。

乳酸菌の作り出す物質(代謝産物)と菌体の内外の諸成分が腸内環境を改善すると考えられますが、それがどのような仕組みで腸内フローラを活性化させるのか、まだ十分分かっていません。

「ヨーグルトはカラダに良い」と思って毎日食べて、調子が悪くなることもあります。ヨーグルトは動物性脂肪を含んでいるので、ヨーグルトから数十億個以上の乳酸菌を摂取しようとすると、動物性脂肪の摂り過ぎにもなります。

また、乳酸菌は、糖類を分解して乳酸を産生する細菌類の総称で、250種以上の種類があり、乳酸菌が生育するためには人間同様、複雑な栄養*Kが必要です。ヨーグルトの原材料である牛乳は、カゼインや乳清タンパク質、乳糖(ラクトース)が主であるため、これらを分解、発酵できる乳酸菌の一部しか生育できません。これらのことからも、特定の食材に偏りすぎるのもよろしくありません。

発酵食品には、発酵(細菌が培養される)過程で、消化分解し易くしたり、その原材料となる食材自体の栄養価を高めたり、独特の風味を生んだり、長期保存性を高めたり、様々なメリットがあります。以上のことからも、普段の食生活では、多様な発酵食品の摂取が望まれます。

ちなみに、発酵も腐敗も、タンパク質や炭水化物などの成分が細菌の作用で分解されて起こる現象です。乳酸菌は糖類などから多量の乳酸を産生することで、食品のpH(ペーハー)バランス*Lを酸性に傾けることで、腐敗や食中毒の原因になる他の細菌の繁殖を抑え、発酵食品として長期保存を可能にし、私たちが食べることができる重要な働きをしています。

*I. プロバイオティクス:腸内フローラバランスを改善することにより動物に有益な効果をもたらす生菌添加物[Fuller, 1989], *J. 糖類などを発酵してエネルギーを獲得し、多量の乳酸を生成する一群の細菌の総称, *K. 糖質やアミノ酸、ビタミン、核酸塩基など, *L. pHとは、水素イオンの濃度指数のこと。酸性とアルカリ性の度合いをpH0~14の数字で表し、pH7を中性、それより小さい値は酸性に、大きい値はアルカリ性に傾いていることを指します。

ルミナコイドの分類

オリゴ糖や食物繊維は、オナカの腸内細菌が好んで食べ、有益な働きをし健康に良い影響を与えてくれる、人では消化しにくい食品成分で、プレバイオティクス*Mと呼ばれています。

*M. プレバイオティクス:大腸内の特定の細菌の増殖および活性を選択的に変化させることより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分[J. Nutr. 125: 1401-1412, 1995. ]

難消化性成分(難消化性の炭水化物やタンパク質など)はプロバイオティクス以上に医学的有用性エビデンスが多く揃っています。そのため、本スクールではこの難消化性成分である「ルミナコイド」に関する内容も充実しています。ルミナコイドとは、日本食物繊維学会が命名した、「ヒトの小腸内で消化・吸収されにくく、消化管を介して健康の維持に役立つ生理作用を発現する食物成分」 のこと。(上表:「ルミナコイドの分類」日本食物繊維学会)​

そして、ルミナコイドを腸内細菌が食べることで生み出されるのが、短鎖脂肪酸(有機酸)です。主な短鎖脂肪酸は、酪酸、プロピオン酸、酢酸です。

[各短鎖脂肪酸の有用性]

 

酪酸:

・小腸の繊毛運動、大腸の蠕動運動を活性化

・腸管粘液層の修復、ムチンの分泌を促し大腸を保護

・大腸細胞の異常な増殖を抑え大腸癌の発症を抑制

・腸管ホルモン(GLP-1)を促しインスリン分泌を正常化

・腸管ホルモン(GLP-1,PYY)を分泌させ過食を抑制

・Tレグ細胞(制御型T細胞)活性で過剰免疫反応を抑制

​など

 

プロピオン酸:

・腸管粘膜でのTレグ細胞を維持し大腸炎を抑制

・腸管ホルモン(GLP-1,PYY)を分泌させ過食を抑制

など

 

酢酸:

・腸内pHバランスの弱酸性化で腸内細菌バランス改善

・大腸腸管上皮細胞のバリア機能を高め感染症を予防 

・食欲抑制効果

​など

 

「②腸のぜん動(収縮)運動の適正化」の観点からも、その運動エネルギー源の多くを占めるのが短鎖脂肪酸*Nの一種である酪酸が重要になります。

*N. 短鎖脂肪酸は腸内細菌が難消化性成分を発酵し産生させます。短鎖脂肪酸には、酪酸、プロピオン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、吉草酸などの複数種類があります。但し、乳酸、コハク酸は短鎖脂肪酸に含めないとする見解もあります。*(10)

 

この酪酸を効率的に産生させるには、レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)のような「酪酸の産生比率の高い難消化性炭水化物」を摂取する。大腸全域で発酵させるには、「分子サイズが異なることで、腸内発酵時間に差が出る、難消化性成分を複数組合せる」などを考慮することで、より効率かつ効果が期待されます。

腸内フローラは国毎の大きな特徴があることも分かってきました。​日本人には日本人特有の腸内細菌がいます。特に、オナカの中で短鎖脂肪酸や、抗酸化作用のある水素を生み出してくれる細菌たちは他にも有益な栄養を生み出してくれています。下図*(11)は、日本人と欧・米・中国等の外国11カ国の腸内細菌叢のメタゲノム解析(細菌叢の遺伝子解析)を比較したものです。

スマートライフ協会_日本人と外国人の腸内細菌叢

また、腸内環境を整えるには、「腸内細菌を減らす危険のある抗生物質や添加物の削減」「腸内pH(ペーハー)バランスを整える」「腸内炎症を抑制する」「腸管粘膜を修復する」「腸内での未消化たんぱく質(分子量の大きいカソモルフィンやグリアドルフィンなどのペプチド)を減らし腸内腐敗を無くす」なども考慮した総合的な「腸活」で、より効果が期待できます。

加工度の高いたんぱく質は腸内で未消化となり、これがフェノール類*Oなどの腐敗産物を産み出し、腸から吸収され、肌の角質層に定着し、肌のターンオーバーを阻害し、シミ・シワなど様々な肌トラブルの原因の一つでもあります。特に美腸などの美容面からも、たんぱく質​の消化についても注意が必要です。

日本人は欧米人と比べ、胃酸の分泌量が少ないため、過度な加工たんぱく質の摂取は、大腸内での未消化たんぱく質(ペプチド)の原因になるばかりか、消化負担が増すことで分泌される胆汁酸が過剰化し、大腸まで届き、腐敗産物の産生を促してしまいます。

 

腐敗はpH8以上のアルカリ性で起こるため、腸内で腐敗を起こさないようにするには、pH6以下の弱酸性に保つこともとても重要です。ルミナコイドの積極的な摂取が、腸内のpHバランスの最適化につながります。

*O.フェノール、パラクレゾールなど

さらに、健康の根幹のもう一つである血液、そして全身にそれを行き渡らせる血管の保全も重要なポイントになります。その他細胞劣化を促す「酸化ストレス」「糖化ストレス」「炎症ストレス」「情動ストレス」「重金属ストレス」を減らすことも考慮することでより効果が期待できます。​

但し、このような腸活も、逆にトラブルになる人もいるので、注意が必要です。過敏性腸症候群やSIBO(小腸内細菌増殖症)など腸に疾患がある方は、医師に相談するとともに、小腸で吸収されにくい食品を避ける必要があります。FODMAPと言われる炭水化物(「F=発酵性の」「O=オリゴ糖」「D=二糖類」「M=単糖類」And「P=ポリオール(糖アルコール)」)を避け、不調の原因となる食材を見つけ出し、それを避ける必要があります。

出典:*(1)Microbial Evolution and Co-Adaptation: A Tribute to the Life and Scientific Legacies of Joshua Lederberg: Workshop Summary, *(2) Mod Media 2014:60(10):307-311 *(3)亜鉛栄養治療 2018:8(2). , *(4)日消外会誌2003;36(7):832. , *(5) Nat Neurosci. 2012 Sep; 15(9):1211-1218, *(6)日内会誌2015: 104; 86-92. , *(7) Mod Media 2016:62(5):159-165, , *(8) Nature 10.1038/nature12721. 2013. , 農化誌2000: 74: 990-3. , *(9)Jpn J Psychom Med 2011: 51; 45−52. , *(10) Cambridge University Press, Cambridge. (1995) pp. 427-481. , Br. J. Nutr.: 58(1): 955-103, 1987. ,日油化学会誌1997:46(10): 1205-1212. , *(11) DNA Res. 2016; 23(2): 125-33. 

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